はんぶんこ

2011
08.22

数年前、私には好きな人がいた。

本当に大好きだった。

四六時中ずっと一緒に思ったのはあの人だけだった。

 

 

当時まだ学校を卒業したばかりだった私は、実家を飛び出し

彼の家に転がり込んで、日々だらだらと過ごしていた。

 

でもそれで幸せだった。

彼が居れば他には何も要らない。

心からそんな事を考えていた。

 

彼と一緒にいればそれだけで何だって出来るような気がしていた。

実際にそんなはずはないって事くらいどこかで気付いてたんだけれど。

 

 

目的もなく街を散歩した事。

カラオケボックスで流行りのラブソングを一緒に歌った事。

ひとつしかない布団に一緒に潜り込んで眠った事。

 

今でも彼は覚えてくれているんだろうか。

 

 

ある時、彼は深刻そうな顔で私にこう言った。

 

「遠くにいかなきゃならなくなった」

 

詳しい理由は教えてくれなかった。

ただ、それは彼にしか出来ない事をしに行くという事だけは教えてくれた。

 

一緒に行きたかった。

でも許してくれなかった。

 

泣いて彼にすがった。

それでも首を縦に振ってくれなかった。

 

「絶対帰ってくるから。だから待ってて欲しい」

 

そういって彼はどこかへ旅立っていった。

 

 

 

先日、彼がとてつもない偉業を成し遂げたという話を聞いた。

 

それは彼なしでは成功する事はないくらいの計画だったらしい。

今、彼は現地で英雄的扱いを受けているそうだ。

 

『今すぐ彼の元に飛んでいきたい』

 

そんな考えが頭をよぎった。

でも、すぐに振り払った。

付き合ってたあの時でさえ、彼は私を現地につれていく事を拒んだのだから。

 

「絶対帰ってくるから」

 

その言葉を信じて待っていようと思う。

私に出来るのは彼を信じる事くらいなのだから。

 

だから、これくらいは許してほしい。

彼の話を聞くたびに、胸の中でこんな言葉を問いかけてしまう事だけは。

 

 

 

―――はんぶんこした愛のかけらを今でもまだ持っていますか?

 

 

 

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