VIBES BY VIBES

2011
08.26

 

「もう何も解らへん!!」

 

 

彼女は、昔から僕の家の近くに住んでいる。

分かりやすく言えば『幼馴染み』だ。

 

いつものように学校からの帰り道を歩いていると

彼女が泣きながら帰ってるのを見かけてしまった。

 

「どしたん?何かあったんか?」

 

と声を掛けた途端、振り向きざまにそう叫ばれたのだった。

 

 

「あいつな、いっつもこうやねん!」

「今日もな、あたしが『一緒に帰ろー!』言うたらな、

『恥ずかしいしええわ』とかめっちゃ冷たくてさー!」

「そのクセ、他の女の子と一緒に帰っててんで!?」

「こんなん付き合ってるって言えるんかなぁ!?」

 

そう一方的にまくし立てて、またメソメソ泣き出す。

正直、気持ちはよく分かる。でも事情を知っている僕は

「まぁまぁ、落ち着けや。色々あるねんてきっと」

と、はぐらかすように答える事しか出来なかった。

 

 

「今度あいつの誕生日やろ?でも何買っていいか

分からへんねんなぁ・・・」

 

問題の『あいつ』と僕は小・中・高と同じ学校。

つまり腐れ縁というやつだ。

彼女も当然同じ学区だったため、昔はよく一緒に

遊んでいた。昔と言っても中学生くらいまでなので

『最近まで』のほうが正しいのかもしれない。

 

先日「付き合う事になった」と報告された時は驚いたもんだ。

いつも事あるごとに喧嘩ばかりしていた二人だったが

『喧嘩するほど仲が良い』という事だったのかもしれない。

 

「そんなもんあれやろ。他の女の子に聞いたらいいんちゃう?

女の気持ちは女しか分からへんやろうしな」

 

昼休みにご飯を食べ終え、二人でだらだらしている時に

彼から相談を持ちかけられた。

今月末にある彼女の誕生日プレゼントが決まらないという

話らしいが、そんなもの知っていたら僕がプレゼントしてる。

 

もちろんそんな事は口が裂けても言えないので、当たり障り

のない回答をする事しか出来なかったのだが。

 

「お、さすがやな!もしかしたら幼馴染みの自分やったら

知ってるかも、と思ってんけど良い事聞いたわ!」

 

「さっそくちょっと聞いてくる!」

 

そう言って彼は意気揚々とクラスに戻っていった。

 

 

「・・・でな、ん?なぁ、ちゃんと話聞いてる!?」

「あ、ごめん!聞いてんで、ちゃんと」

「もう!んでな、あいつな・・・」

 

あいつの事だ、そのまま女友達とプレゼントを探しに行ったんだろう。

彼女の話を聞いてお昼の事を思い出していると、それをぼけっとしてる

ように見られでもしたのか、ちょっと怒られてしまった。

 

しかしまぁ、あいつへの愚痴は留まるところを知らない。

付き合う前から揉め事が多かった二人だ。

二人だけの時間が増えれば、そりゃ問題も増えるだろう。

 

『そんなに嫌なら別れたらいいのに』

 

一瞬そんな言葉が口から出掛かったが、ぐっと堪えた。

僕はあいつの悲しい顔も、こいつの寂しそうな顔も見たくない。

きっと何だかんだで二人はいつも通り仲良くなるんだろう。

今回の事だって、あいつの彼女への愛情が発端なんだから。

 

「・・・ただな、そんなあいつやけど、いいところもあんねんで?」

「あんな、前に海遊館行った時の事やねんけど・・・」

 

・・・ほら。気付けばまたノロケが始まった。

結局のところ、あいつの事が大好きなんだこの子は。

そしてそれを知ってる僕は、いつもこうして不満が収まるまで

話を聞いてればそれでいい。

 

 

「あーはいはい。わかったわかった!」

「二人のラブラブトークは聞き飽きたわ!自分も元気出たみたいやし

オレもう帰るで!ゲームしたいねん、ゲーム」

 

彼女をちゃかすように僕は笑いながら言い放った。

二人が幸せになってくれるのは良い事だと思う。

でも、そんな二人を想像するのはちょっと切ない。

だから、あいつと一緒に居る事を幸せそうに話す

彼女の話は、いつも途中でぶった切るようにしてしまう。

 

「べ、別にそんなんちゃうわ!」

もうすっかり涙の跡も消え、いつのまにかにこにこと笑顔に

なっていた彼女だったが、僕の言葉を聞くと照れ隠しなのか

ちょっと怒ったような声色でそう言った。

 

そしてすぐにまた笑顔に戻り、僕に向かって

「でもまぁ元気出た、ありがと」

と、ちょっと恥ずかしそうにお礼を言ってきた。

 

「あいあい。まぁ仲良くしいやぁ」

と、そっけなく答え、僕は帰り道を歩き出す。

 

「ちょっと待ちぃやぁ!同じ方向やねんし、一緒に帰ろうやぁ」

そんな僕を見て彼女は焦ったように付いて来る。

 

「別に構わへんけど、遅かったら置いてくでー」

ぶっきらぼうに答えながら、僕は自分のペースで歩を進める。

 

「だからちょっと待ちって!もう、最近冷たいで自分!」

ちょっと怒りながらも、僕のペースに合わせ隣で歩く彼女。

 

 

そんな彼女を横目で見ながら、考える。

 

『結局のところ、オレはどうしたいんやろうなぁ・・・』

 

 

「・・・まぁ、頑張るか!」

うだうだ考えてても仕方ない。

自分の気持ちを奮い立たせるように僕はそう言い放った。

 

「は?なに、急に。どしたんな?」

いきなり大声を出した僕に、ちょっと驚きながら訪ねる彼女。

 

「あぁ、ごめん。なんもないよー」

「何もない事ないやんか?てか何、気持ちわるっ!」

「何でやねんな!オレ頑張ったら気持ち悪いんか!」

「そんなん言うてないやん。いきなり叫ぶし、きしょかってんて」

「待って待って!そんなん言われたらもう何も叫ばれへん!」

「いや叫ばんでいいし。てか周りに迷惑やろ普通に」

「何や自分、元気出た思たら急に冷たいな!オレにも優しくしてや!」

「優しくしてるやん、いつもー!冷たなんかしてへんてー」

「きっしょ!何なん、その喋り方!自分がきしょいわ!」

「ちょ!女の子に対してその言い方あかんのちゃう!?」

 

 

しょうもない会話をしながら僕たちは歩く。

こんな日々がずっと続けばいいのになぁ、と僕は思う。

もちろん、いつまでもこんな風に続かない事は分かっているんだけど。

 

 

・・・まぁ、みんな幸せになったらそれでええねんけどな。

 

 

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