世界の終わり

2011
08.13

―――悪いのは全部、君だと思ってた。

 

「彼女は頭がおかしい。あまり言うことを鵜呑みにするなよ?」

友人からその話を聞いた時、僕は笑いながら受け流した。
確かに突然訳の分からない話を始める事はある。
ただ、ちょっと天然が入ってるだけなんだと思っていた。

 

でも、彼女と付き合っていく内に友人の警告が真実ではないかと
考える事が多くなってきた。

どんなに楽しい話をしていても。
どんなに嬉しそうな表情を見せていても。
どんなに幸せな時を過ごしていても。

彼女は突然くすくすと笑い出し、そして言った。

「もうすぐ世界は終わるんだよ。知ってた?」

始めの頃は『何の冗談なんだろう』と思っていたけど、だんだん
うんざりしてきた。
冗談にしては笑えないし、何より話の流れをぶった切ってまで
言うような言葉ではないと思った。

 

「君には何が見えてるって言うんだ!?」

いつものように、彼女が世界の終わりについて突然話し始めた時、
僕はいらいらしながら怒鳴った。
彼女はそんな僕を見ながら、ちょっと驚いたような顔をしてこう言った。

「だって、こうしてる間にも世界は変わっているじゃない」
「赤い月が昇る日。それが最後の日なの」

 

我慢の限界だった。

 

「君は狂ってるよ」
そういって僕は顔も見ずにその場から離れた。

 

 

『いったい彼女はどんな顔をしていたんだろう』

今になってそんな事を考える。

どこぞのテロ国家がどこぞの『正義』を謳う国と
戦争を始めてから数年が経った。

『正義』の一方的な勝利に終わると思われていたその戦争は、
自分の身を顧みないテロ国家の猛反撃により拡大の一途をたどった。

今や全世界のあちこちで環境の破壊、食料の減少、そして自殺者の
増加に伴う人口の減少が発生していた。

『これじゃ彼女の言った通りだ』

 

僕はあの時の事をとても申し訳なく思った。
間違っていたのは僕のほうだった。

きっと彼女にはこの事を予期していたんだろう。
そういえば彼女は各国の情勢やその裏話をまるで関係者かのように
話してくれる事がよくあった。

あまりに詳しいものだから、僕はどうせオカルトか与太話のたぐい
だろうと軽く聞き流していた。

今思い返すと、その話は今の状況にぴったり当てはまる事が多すぎた。
かと言って何かが出来た訳でもないのだけれど。
ただ、少なくとも彼女に怒鳴ったりこうやって後悔する事はなかった。

 

 

今頃彼女は何をしているのだろうか。最近考えるのはその事ばかりだ。

 

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“世界の終わり”に2件のコメントがあります

  1. より:

    >今頃彼女は何をしているのだろうか。

    きっと新しい彼の事を

    今頃彼は何をしているのだろうか。

    と、想っている事でしょう

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