ロックンロールは鳴り止まないっ

2011
08.19

「最近の曲なんかもう、クソみたいな曲だらけさ」

 

同じ高校の軽音部で部員の彼はよくそんな事を嘯いていた。

『ロクにギターも弾けない癖によくもまぁそんな事を』と
思いはしたけど、あえてそれを口に出す事はなかった。
それよりも彼に聞きたい事があったからだ。

「じゃあ君はどんな曲が好きなのさ?」

 

その夜、駅前のレンタルショップで彼のオススメを借りた。

ひとつはかの有名なThe Beatlesの『Please Please Me』。
とは言っても今まで聞いた事があるのはせいぜい2,3曲だ。
どうも古臭い感じがして、しっかりと聞いた事はなかった。

もうひとつはSex Pistolsの『勝手にしやがれ!!』。
「パンクは下手すぎて参考にならない」と、勝手な思い込みが
あり、今まで何となく手が出なかった。

 

・・・結果的に失敗だった。
正直、最近のヒットチャートで流れているような分かりやすい
ポップな曲が好きな僕からすると、最初に思ったとおりだった。

The Beatlesの構成は古臭すぎて非常に味気なかったし、
Sex Pistolsに関しては生々しいまでの荒さが好きになれない。

彼が言ってた素晴らしさは、僕には全然理解出来ないものだった。

 

翌日、部室でその事を伝えると彼は失笑しながらこういった。

「今日の帰りにでも、もう一回ちゃんと聞いてみろ」

部活動が終わった帰り道、彼の言うことを思い出した。
正直なところ気は乗らなかったけど『でもまぁせっかく借りたんだし』
としぶしぶMDの再生ボタンを押した。

 

 

その瞬間、自分の中で何かが弾けた。

耳から脳へ、脳から天へ、音の洪水が僕の身体を突き抜けた。
あまりの衝撃に反射的にMDを止め、イヤフォンを外したにも
関わらず、曲は一向に鳴り止まないどころか脳内で暴れだした。

その日から僕の音楽に対するモチベーションが変わった。

『好きな曲を弾ければいいや』と思っていただけのはずが
『どうしたらあんな曲が作れるのか』ばかりを求めて、片時も
ギターを離さず一心不乱にコード進行を書き留め続けた。
そのせいで危うく高校の単位を落としそうになったくらいだった。

 

 

それから数年が経った。
ある時、腕試しに参加したコンテストで優勝した僕は、今では
CDを何枚か出せるほどには人気のあるバンドのリーダーになった。

商業的に成功しているか、と聞かれればちょっと疑問なところは
あるけど、それでも当時憧れていたヒットチャートにも掲載された。

そもそも万人受けするような曲ではないと思ってただけに、こんな
結果はちょっと意外だったけど、それでも受け入れられるのは嬉しかった。

ただ、当然というべきか批評も多かった。

 

「クソみたいな曲だ」
あの頃、彼が言ってたような言葉を僕に投げかけてくる奴もいた。

それでも僕は歌い続けていきたいと思う。
僕の曲を聞いて、昔、僕が感じたような衝撃を受けてくれる人が
増える事を願っている。

 

少なくともヒットチャートに載れるくらいには聞いてくれる人が
いるんだから。

僕のようになりたいと思って、ギターを手に取ってくれる人が
増える限り、ロックンロールは鳴り止まないと思うから。

 

YouTube Preview Image
このエントリーをはてなブックマークに追加
はてなブックマーク - ロックンロールは鳴り止まないっ
Share on Facebook
Post to Google Buzz
Bookmark this on Yahoo Bookmark
Bookmark this on Livedoor Clip
Share on FriendFeed

関連記事

Your Reply